みなさんの職場では、ペーパーレス会議を実践しているだろうか。会議室に各自がノートパソコンを持ち寄り、事前に配布した文書ファイルを見ながら議論する、といったスタイルだ。「会議の参加人数×資料の枚数」の分だけコストが減るのだから、こういうペーパーレスは合理的と言えば合理的である。
篠原菊紀氏(しのはら きくのり)
諏訪東京理科大学共通教育センター教授
脳科学者。数々のテレビ番組で脳トレ(脳のトレーニング)や脳実験の監修をしているほか、企業との共同研究も多い。脳科学に関連した著書多数。
しかし、「知的生産性」という切り口から見たとき、そういうペーパーレスは本当に正解なのだろうか。感覚的には、紙の方が効率的だと思う作業も少なくない。
この疑問について、脳科学者の篠原菊紀氏(諏訪東京理科大学共通教育センター教授)にたずねたところ、「実験データから、紙の資料を見るのとパソコンやタブレットで資料を見るのとでは脳活動に差があり、全体として業務のパフォーマンスは紙のほうが高いといえます。もし、深く議論せずに会議を通したい話があるなら、ペーパーレス会議は戦略的に良い方法かもしれません(笑)」という答えが返ってきた。
やはり、何でもペーパーレス化すればよい、というわけではないようだ。脳科学の観点から篠原氏が行った実験とその結果について見ていこう。
プレゼンの内容をよく覚えているのは、デジタルより紙の資料
篠原氏は、会議におけるプレゼンテーションを題材に、こんな脳実験を行ったという。
NIRS(近赤外線分光法)装置を使った脳活動の測定
脳活動の測定に使ったのは「NIRS(近赤外線分光法)装置」というものだ。被験者は左の写真のように、多数のセンサーが組み込まれたヘッドギアを頭にかぶって実験に臨む。「活発に活動している脳細胞には酸素が集まってきます。血液は、酸素を運んでいるときと酸素を放出したときで色が違うので、NIRS装置で脳に近赤外線を照射すると、酸素が多いところ、つまり活動が活発になっている場所がわかります」(篠原氏)。
結果はどうだったか。まず脳活動については、左側の前頭前野(脳の前方にある部位)の活動に有意な差が出た。「前頭前野は、記憶や情報を一時的に保持して組み合わせ、答えを出していくワーキングメモリーと呼ばれる機能に強くかかわります。私たちはものを考えたり、コミュニケーションをとったり、仕事をしたりする、いわゆる『頭を使う』というときにはワーキングメモリーを使いますが、左の前頭前野は特に言葉にかかわるワーキングメモリーとかかわっています。ここがタブレットより紙の資料の場合のほうが活発に活動したわけです」。
プレゼンの後に実施した内容確認テストでも、紙の資料を見たときの平均正答数は、タブレットで資料を見たときのそれと比べて約11%多かった。つまり、紙の資料のほうがプレゼンの内容をよく覚えていたということになる。